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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)2521号 判決 1970年6月15日

原告 幹建設株式会社

右代表者代表取締役 中村幹夫

右訴訟代理人弁護士 井出雄介

被告 中屋範治

主文

被告は原告に対し、一六〇万円およびこれに対する昭和四四年三月一八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判。

一、原告

主文同旨の判決。

二、被告

請求棄却の判決。

≪以下事実省略≫

理由

一、被告が昭和四三年八月三一日(この日付は≪証拠省略≫によって認められる)訴外会社に対し、神奈川県相模原市相模原八丁目五番地地上の鉄骨ラス張り二階建ビルの建築工事を代金約五〇〇万円と定めて請負わせたことは、当事者間に争いがない。

二、≪証拠省略≫によると、原告が同年九月二四日訴外会社から右ビル建築工事のうちの骨組工事(地ならし、土台工事を含む)を代金一六〇万円と定めて請負(下請負)ったこと、原告が原告所有の材料を用いて同年一〇月中旬頃右下請工事を完成したこと、ところで、原告は、右工事の目的物を訴外会社の検査を得て引渡すことになっていたところ、その頃訴外会社が倒産状態になって右工事代金の支払をしないため、訴外会社との間でその引渡をしないでいたことが認められ、右認定に反する証拠がない。

ところで、下請負契約において、下請負人が材料を提供して完成させたビル建築の中核となる鉄骨工事のような工事の目的物は、下請代金の前払等の特別の事情または特約のない限り、元請負人(注文者)にその引渡をするまでは下請負人の所有に帰属しているものと解されるところ、本件において、右特別の事情または特約が存在したとの主張立証がないから、原告の工事した右鉄骨築造物は原告の所有に帰属していたものと認めることができる。

三、被告が他の業者に依頼して右鉄骨築造物を利用してビル建築工事を続行しこれを完成させたことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると、被告は、原告から口頭および昭和四三年一一月二六日付内容証明郵便をもって、原告に無断で原告所有の右鉄骨工事部分に手をつけてはならない旨の通告を受けたが、直接被告と契約関係にない原告の右通告に従う必要がないと考え、訴外会社との間で、既に支払った請負代金をもって右鉄骨工事(土台工事を含む)の代金額の清算をしてその請負契約を解除する旨の合意をしたうえ、同年一二月原告の右通告を無視してビル建築工事の進行にとりかかり前記のとおりこれを完成させたものであることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠がない。

ところで、被告と訴外会社の間に締結されたビル建築工事請負契約においての前記約定代金額に照らすと、原告の工事完成した右鉄骨築造物の代価より被告がビル建築の完成のためこれに付加した材料の代価と工作費用との合計額が相当上廻っていたことが推認できるから、被告は、民法二四三条、二四六条に基づきその構成物となった右鉄骨築造物を含む右ビル建造物(不動産)の所有権を取得するに至ったものと解するのが相当である。

四、以上の事実によると、被告は法律上の原因なくして右鉄骨築造物の価額(前記工事代金額)一六〇万円に相当する利益を得、一方原告は右鉄骨築造物の所有を失って右同額の損失を受けるに至ったことが明らかである。

ところで、原告は請負人である訴外会社から右鉄骨築造物の引渡を受け且つ訴外会社にこれに対する代金の支払を了している旨主張するが、訴外会社が右鉄骨築造物の所有者でないことは前記認定したところによって明らかであり、従って、被告が無権利者である訴外会社から右鉄骨築造物を有効に取得したことにはならないし、また訴外会社に対する右代金支払いは、被告が右鉄骨築造物を附合により取得したことと何ら法律上の関連を有しないから、被告の右主張事実は、右不当利得成立の認定を妨げることにはならない。

そうすると、被告は原告に対し、右利得金一六〇万円およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和四四年三月一八日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があることが明らかである。

五、よって、原告の請求は理由があるのでこれを認容し、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 柿沼久)

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